2009-11-22

Njála

11月10日に授業の一環で『ニャールのサガ』(『焼き殺しのニャールのサガ Brennu-Njáls saga/愛称ニャーラ Njála)の舞台をめぐる小旅行があった。
シングヴェトリル、スカールホルト、サガ・センターのあとに向かったのが写真の場所。

ただの平原にしか見えないが、じつはニャールのサガの主人公の一人であるグンナル・ハームンダルソンの農場フリーザレンディ Hlíðarendi からの眺め。
ニャールの農場ベルグソールスフヴォッル Bergþórshvollr のある方向で、中央にうっすらと見える丘がロイザスクリーズル Rauðaskriðr。
両家の(主婦同士の)有名な血讐(=húskarlavíg)では、両農場の中間に位置するこの丘で最初の殺害がおこなわれる。
『ニャーラ』の中では森があったと言及されているが今は草しか生えていない。

フリーザレンディ、と推定されている場所はなだらかな斜面の上にある。現在は、近代以降に建てられた教会があるほかは特に何も残っていない。
『ニャーラ』の中の有名な場面で、アイスランドから追放になったグンナルがまさに旅立とうとしたとき、偶然馬から落ちて背後の斜面の光景を目にしてその美しさに感じ入り、渡航を思いとどまる、というシーンがある。

Honum varð litið upp til hlíðarinnar og bæjarins að Hlíðarenda. Þá mælti hann: "Fögur er hlíðin svo að mér hefir hún aldrei jafnfögur sýnst, bleikir akrar en slegin tún, og mun eg ríða heim aftur og fara hvergi."
 --("Brennu-Njáls saga", Icelandic Saga Database, Sveinbjorn Thordarson (ed.), ch.75.)

景色に対する言及そのものが珍しい上に、そのシーンは直後に続くグンナルーコルスケッグ兄弟の惜別も含めて非常に美しく印象に残る。
しかしその決断は遠からず、グンナルの死を招く。

この日は天気に恵まれ、ちょうど雲間から光が差して斜面を照らし、 思わず美しいとつぶやいたグンナルの気分に浸ることができた。

ベルグソールスフヴォッルの方も、一応案内板があるものの、ほかには何もない。ただただ牧草地が広がる。
大聖堂とか古城とかが残っている「ヨーロッパ」の中世と比べると、アイスランド史は特に逞しい想像力が必要な気がする。
そのかわり山や海の地形は変わっていないかと思いきや、そうでもないらしい。
氷河の氷の量によって川の流れも変わるし、ロイザスクリーズルのあたりには大きな地震があって、地形は大分変わってしまっているとトルヴィが説明していた。
シングヴェトリルの「大地の裂け目」も少しずつ広がっているはずだ。

今期の授業では『ニャーラ』に関して以下のようなトピックを扱った。内容に言及する余力がないので参考文献だけ挙げておく。全てPDFで配布されたので、もしご希望の方はご連絡を。

・ヒロイズムとジェンダー/masculinity
» Robert Cook, “Heroism and Heroes In Njáls Saga.”
» Ursula Dronke, "The Role of Sexual Themes In Njáls saga", Myth and Fiction in Early Norse Lands, Variorum, 1996, 3-31.
» Anderson, Carolyn. “No Fixed Point: Gender and Blood Feuds in Njal's Saga.” Philological Quarterly 81-4 (2002), 421-440.
» Ármann Jakobsson, “Masculinity and Politics In Njáls saga.” Viator 38 (2007), 191–215.

・血讐の構造と行動心理ーhúskarlavíg
» William Ian Miller, “Choosing the Avenger: Some Aspects of the Bloodfeud in Medieval Iceland and England.” Law and History Review 1, no. 2 (1983): 159-204.

・ヒルディグンの嘆き
» Carol J. Clover, “Hildigunnr's lament.” In Structure And Meaning In Old Norse Literature: New Approaches to Textual Analysis and Literary Criticism, eds. John Lindow, Lars Lönnroth & Gerd Wolfgang Weber. Odense University press, 1986.

・運命の機能
» William Ian Miller, “Justifying Skarpheðinn: Of Pretext and Politics in the Icelandic Bloodfeud,” Scandinavian Studies 55 (1983) 316–344.
» Tulinius, Torfi H., “Ærið gott gömlum og feigum.” Seeking death in Njáls saga (The 14th International Saga Conference, Uppsala, Sweden 9th-15th August 2009)

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