2009-09-28

það er eitt ár síðan kreppan byrjaði.

“Kreppanから一年”
(現代アイスランド語ボキャブラリー授業中の例文より)

昨年来、世界中で取り沙汰されているアイスランドの経済危機を、アイスランド語で "Kreppan"という。
日本で見ていたネットニュースなどでは、銀行はすべて国有化され、輸入品が入ってこなくなりスーパーの品揃えは極端に減少、国会議事堂(Alþingi)の前で連日デモが起こっている……等々の情報が流れていたが、現地に来てみればそれほどでもない。
少なくともレイキャヴィーク中心部では。

スーパーマーケットには相変わらず、こんなに要らないだろうというくらいの商品が山積み。
銀行でも問題なく口座を開けた。
アルシンギ前の広場もツーリストしかいない。

とはいえ、現地に住んでいる知人に聞くと、やっぱり変化は色々と起こっているらしい。
借家・売家が増えてたり、港には建設途中の新オペラハウスが放置されていたり、学生が就職支援を求めて大学前に座り込みをしたり。
町のシンボルのはずのハットルグリーム教会も、去年から修理中で、工事用の足場に覆われたまま放置されている。
アイスランド大学もお金がなく、閉鎖される学科もあるという。

短期滞在の留学生の身からすると、アイスランドの人々には申し訳ないが、正直良い時に来たと思う。
借家が増えているおかげで、大学近くに条件の良い部屋を安く借りられたし。
なによりも生活費がKreppan以前とは比べものにならないほど安く済む。

そういうことを考えていたのは私だけではなく、学生組合のHPにこんな記事があった。
「Kreppanが留学生を助ける」

そうか、学生無料のバスカードはなくなったのか……。

2009-09-19

"Út vil ek" 

今日、大学で面白そうな研究会があったので行ってみた。

„Út vil ek“—Frá skosku eyjunum til Íslands og annarra í norðri.

Ráðstefna um menningarleg tengsl milli skosku eyjanna og Norðurlanda frá miðöldum til dagsins í dag.
(中世から今日までのスコットランドの島々と北欧の文化的関係に関するカンファレンス)>プログラム

通常skoskur=Scottishだが、どちらかというとGaelicの意味で使われていた。
慣習、民間伝承、地名など、さまざまな要素の分析から、スカンディナヴィア(特にアイスランド)とケルト圏の島々(フェーロー諸島、シェトランド諸島、オークニー諸島、ヘブリディーズ諸島、マン島、スコットランド、アイルランド)とのつながりを浮き彫りにしようという試み。

"Út vil ek"「私は行く」は、『ホーコン・ホーコンソンのサガ』中のスノッリ・ストゥルルソンの台詞。
王の禁令にもかかわらず、ノルウェーからアイスランドへ向け出航しようとする場面。
アイスランドの「属国化」を企てるノルウェー王とそれに立ち向かうスノッリという、アイスランド・ナショナリズムの文脈では有名な台詞らしい。

余談だが、古アイスランド語テクストは、
 —koma út/fara út:アイスランドへ来る/行く
 —fara útan:海外へ行く
……という非常に紛らわしい表現を多用する。
サガを読み始めた頃はよく混乱した。なんでút=outなのに「来る」なんだ?
ソエガによれば "going out to Iceland from Norway"ってことらしい)
先日、『アイスランド人の書』を読む授業でこの表現が出てきて、ヴィーザルが違いを説明していた。
多くのクラスメイトの頭上に?が浮かんでいた。

カンファレンスに戻ろう。
特に質疑応答が白熱していたのは 、Þorvaldur Friðrikssonの "Mountains and Valleys in Iceland Carry Gaelic Place Names"。
アイスランドの地名の中にどれだけゲール語起源の要素が残っているかという発表内容自体よりも、途中で言及した、アイスランド全国民のDNA調査の結果によれば、女性植民者の63%は北欧系ではなくてケルト系だったという話の方が導火線となったようだ。
オーディエンスの内訳はよく分からなかったが、多分、アカデミックではない人たちも多数参加していたと思う。
かつてほどではないにせよ、やっぱりノルウェー・ヴァイキング起源かケルト起源かという問題は、大方のアイスランド人の心をざわつかせる話題らしい。

個人的にはギースリ・シグルズソンのサーモンの話が面白かった。
グラーガース、教会証書、ランドナーマボーク、サガの中の鮭漁への言及を比較して、ケルト圏からきた植民者の方が、スカンディナヴィア出身者よりも鮭漁について高い技術を持っていたという可能性を導き出していた。
ついでに、中世アイスランドの食糧事情の中でサーモンの持つ価値も。
ヴィンランドでは「大きな鮭=ワイン」らしい。

ギースリ・シグルズソンはアイスランドとケルト圏のつながりについての先駆者。
+Gísli Sigurðsson. Gaelic influence in Iceland, 2nd ed., with a new introduction, Reykjavík: University of Iceland Press, 2000. (1st ed.: Menningarsjóður, 1988)


そういえば昨日、コースの先生がインフルエンザにかかり、パーティが中止になった。
前日、思いきり授業でしゃべってたんだけど…来週ちゃんと授業あるかな?

2009-09-17

Althoff

まさかアイスランドまで来て、アルトホーフをドイツ語で読むはめになるとは……。

授業名は「中世ヨーロッパとスカンディナヴィアにおける宴と贈与」。
今週の課題文献(授業までに必読)が、以下の二点。

+Althoff, Gerd. “Der frieden-, bündnis- und gemeinschaftstiftende Charakter des Mahles im früheren Mittelalter”, in Essen und Trinken im Mittelalter und Neuzeit, hrsg. von Irmgard Bitsch, Trude Ehlert und Xenja von Ertydorff unter red. Mitarb. von Rudolf Schulz, 13-25.

+ ---. “Ungeschriebene Geselze Wie funktioniert Herrschaft ohne schriftlich fixierte Normen?”, in Spielregeln der Politik im Mitterlatter: Kommunikation in Frieden und Fehde. Darmstadt : Primus, 1997, 282-304.


ちなみに先週はM.T. Clanchy, その前がW.I. Miller。
11月にはM. モースの贈与論も読むらしいが、さすがにフランス語じゃなくて英語。
授業で使う文献はすべてPDFで配布してくれる。

先生はViðar Pálsson。
2001年にアイスランド大学でBAを取り(主任指導教官はHelgi Þorláksson)、その後アメリカのカリフォルニア大学バークレー校でMAを取得、現在アイスランド大学に戻り博士論文を執筆中らしい。
1978年生まれ。年がそんなに変わらない……。

アメリカはScandinavian Studiesが盛んなイメージがあったが、今年唯一のアメリカ人クラスメイトによれば、アメリカでも地方によるらしい。
ハーバードとかは一大拠点だが、彼女の出身のヴァージニアではそこまで専門的な勉強は出来ないと言っていた。

ヴィーザルは、留学中にアメリカナイズされたのかその前からなのかはわからないが、いわゆるアイスランド史における「アメリカ学派」、おおざっぱに言ってしまえば文化人類学寄りの議論を展開するひと。
授業のテーマは「宴と贈与」だが、今のところ殆ど紛争史の話なので、日本でよく聞いていた話の英語訳を聞いているようだ。
今回は特にドイツ語のタームが多かったし……SpielregelnとかVerfassungsgeschichteとか。

途中、「封建革命」に話がおよび、しきりに「トマス・ビソン」に言及していた。
聞き覚えがなかったのであとでググってみたら、インタビューが出てきた。
-Thomas N. Bisson:the Henry Charles Lea Professor of Medieval History (emeritus) at Harvard University.

大物だった。もっと勉強しなきゃな…。

2009-09-07

við erum að lesa Egils sögu.

『エギルのサガ』を読んでいる。

授業のタイトルは “Sagas about early Icelanders (Íslendingasögur)”、
先生は中世アイスランド/フランス文学のProf. Torfi H. Tulinius。
アルゼンチン人のクラスメイト曰く、「とてもフランス的な」考え方をする学者。
パリ・ソルボンヌでDoctoratを取っている。

TorfiはMIS(Medieval Icelandic Studies) コースのディレクターでもあって、とても親切な先生。
MISのディレクターは、去年まではたしかHelgi Þorlákssonで、サガに関する文学の授業もÚlfar BragasonによるSturlunga sagaの授業だけだった。
アイスランド大学自体が今年から教育大学と統合されたらしく、色々と組織の改編が起こっているらしい。
MISの授業の内容は、ベーシックなテキスト・リーディングや後期のマニュスクリプト実習は毎年変わらないものの、そのほかの授業は少しずつ変えているようだ。

Torfiの授業では、前期はいわゆる5大サガを英訳をテキストとして読んでゆき、サガの構造や解釈、翻訳の問題を考える。
ちなみに後期には、Legendary Sagasがテーマになる。
さすがに5大サガは全部(日本語で)読んでいるので、そこまで付いていけない、という感じではない。いまのところ。

というか、今まで殆ど自分の頭の中でごちゃごちゃ考えるしかなかったサガやアイスランド社会の話を、堂々と授業で聞けて、話せるのがとにかく楽しい。(そんなに自分が発言できる訳ではないが…)

Egils sagaのテクストは、いまなお刊行の続く「アイスランド古典叢書」Íslenzk fornrit シリーズの記念すべき一冊目として(でもvol.2)、1933年に刊行されている。
+Sigurđur Nordal (ed.), Egils saga Skalla-Grímssonar, Reykjavík :Hið íslenzka fornritafélag, 1933.

……が、かなり古いのでMál og menningの方が良いと授業で言っていた。
+Bergljót Soffía Kristjánsdóttir & Svanhildur Óskarsdóttir (eds.), Egils saga : með formála, viðaukum, skýringum og skrám, Reykjavík: Mál og menning, 1992.

ただし、授業でTorfi自身が原文参照するときに使っているのはこれ↓

+Bjarni Einarsson (ed.), Egils saga, London :Viking Society for Northern Research, 2003.


図書館で見てみたが、エギルのサガに特化したGlossary: s. 190-291が超便利。
このサガを読むだけなら辞書無しで事足りる。
Amazon.ukで£20くらい。帰ったら即注文しよう。

トルヴィ自身のEgla解釈は以下に詳しい。

+Tulinius, Torfi H., Skáldið í skriftinni : Snorri Sturluson og Egils saga, 2004.


英語なら以下の著書のch.12も参考になる。
+Tulinius, Torfi H., The Matter of the North: The Rise of Literary Fiction in Thirteenth-Century Iceland (The Viking Collection 12), Translated by Randi C. Eldevik, 2002.

……しかしこのブログ、完全に備忘録だな。



2009-09-04

norsk þýðing!!

『アールニのサガ』のノルウェー語訳なんて出てたんだ…。

Biskop Arnes saga, trans. Gunhild & Magnús Stefánsson, Oslo: Aschehoug i samarbeid med Fondet for Thorleif Dahls kulturbibliotek og Det norske akademi for sprog og litteratur, 2007.


しかも2007年…早く気づいてたら少しは楽だったのに…。
帰ったら速攻で買おう。norliで5000円くらいだったし。

渡氷報告も何もなしでいきなり本の話もどうかと思うが、ちょっとショックだったので。
今日、Saga 47-1 (2009)を買って家で読んでたら、上記の本の書評(by Magnús Lyngdal Magnússon)があった。
Saga(アイスランドの『史学雑誌』)はHPで目次がチェックできるのだが、最近見てなかったからなぁ。

ほかには、Axel Krintinssonが Feud in Medieval and Early Modern Europe, Jeppe Büchert Netterstrøm og Bjørn Poulsen, Århus: Aarhus UP, 2007, 206bls.という本について書評を書いてたり、Gunnar Karlsson が emotional history について論文を書いていたり。

Medieval Icelandic Studies というコースの最初の一週間を終えてみてまず思うのは、意外とこれまでの知識が通じるな、ということ。
「アイスランド史」ではなくて「中世学」のコースだからだろうけど。
今年は「中世社会における宴と贈与」という授業もある。
W.I.Millerは当然としても、M.T.Clanchy, Althoff, Gautier, Koziolと、馴染みのある名前が並んでいてびっくり。

emotional historyにしろ贈与論にしろ、日本とアイスランドの「ヨーロッパの中世」 に対する距離感は、意外と似ているのかも知れない。
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