2011-07-20

研究補助ツール

自分の使っているパソコンのアプリケーションについて他人に宣伝したことはあまりない。聞かれれば紹介するけど、自分はコンピュータにもネットにも精通しているわけではないし、どんな「ツール」を便利だと感じるかは個人差が激しいものなので。

ただ、最近はあまりに便利なツールが無料で転がっていて、じつはそういうツールを使おうとすると、抽象的な使用法説明よりも実際の「使用例」のほうがよっぽど役に立つことに気づいた。 
けっきょく、実際にしばらく使ってみなければ、自分に合っているのかどうかなんてわからないので、最初は誰かのやり方をそっくり真似してみて、慣れてきたら自分の好みに合わせてカスタマイズしてゆく、というやりかたが近道なのだと思う。

というわけで、「使用例」がたくさんあったほうが誰かの役に立つかもしれないので、少し自分の場合を紹介したい。

パソコンの活用について、自分が最初に参考にしたのは東大西洋史研究室発行の『クリオ』第20号(2006)掲載の、古谷大輔氏による「西洋史研究者のためのパソコン活用入門」。
さすがに5年前年に書かれたものなので、個々のアプリケーションに関しての情報は古いかもしれないが、ここで提言されている基本姿勢はいまでも十分通じるので、ぜひ一読をお勧めする。

とりあえずここでは、3つのツールを紹介する。すべてフリーソフト。
  1. Dropbox(オンライン・ストレージ)
  2. Zotero(文献情報の管理)
  3. Evernote(メモ)

1.Dropbox公式サイト
一番のオススメ。ネット上にデータを保存する、いわゆるオンライン・ストレージサービス。ファイルのバックアップ、同期、共有に適している。

GoogleドキュメントやYahoo!ブリーフケースなどとの違いは、いちいちネット上にファイルをアップロードしなくても、自動的に保存してくれること。
一度自分のパソコンに「Dropboxというアプリケーションをインストールすると、その後は、ファイルを保存するときに「My Dropbox」というフォルダのなかに保存すれば、(ネットにつながってさえいれば)自動的にネット上でも同期をとってくれる。つまり、無意識のうちにデータのバックアップができるのだ。
自分はノートパソコン1台しか持っていないので使っていないが、複数のパソコンを持っている人には、複数のパソコン間で同期を取るという機能も役立つだろう。

なかなか言葉では説明しにくいが、使ってみるとその便利さに愕然とする。
ネットにつながっているパソコンさえあれば、いつでも自分のパソコン上と同じデータを取り出せるので、ネット環境の整っているアイスランドでは、USBでデータを持ち歩く必要がほとんどない。プレゼンのときも、教室に常備されているパソコンからDropboxのサイトにログインし、必要なファイルをダウンロードすれば済む。
アイスランドに来てからノートパソコンが故障し、3週間ほど修理に出していて使えない時期があったが、必要なデータはほとんどDropboxに入っていたので、なんとか学校のパソコンで作業を進めることができた。

さらに便利なのが、ファイルの過去のバーションまで自動保存してくれること。よくあることだが、論文を書いていて、3日前の文章の方が良かったと後悔したら、Dropboxのオンラインサイトから同じファイルの3日前のバージョンをダウンロードして、復元できる。

ほかにも、メールに添付するには重すぎるファイルの共有にも役立つ。自分では今まであまり使う機会がなかったが、たとえば皆がDropboxを使っていれば、共同執筆者間で原稿を回し読みしたり、会議の参加者間で資料を共有したりもできるだろう。

2GBまでは無料。自分は、有料の50GB(99米ドル/年)を使って、万が一流出すると困るような名簿等を除いて、研究のデータから写真や動画、音楽まですべてを詰め込んでいる。書類中心だったら2GBでも十分だろう。

使い方についてはやまほど紹介記事があるので、そちらを参考に。
Dropbox徹底解剖(インストール方法に詳しい)
Dropboxは使って絶対に損はありません! バックアップやファイル共有でクラウドの便利さを体感できるから
Dropbox試用、使用→愛用中のまとめ


2.Zotero
公式サイト
研究者なら誰しも、大量の文献(一次/二次とわず)情報の管理は避けてとおれない道だと思う。最近は、研究に欠かせないウェブサイトやオンライン辞書、電子書籍等もたくさんあるので、一元管理はなかなかむずかしい。
昔はExcelで一覧表にしていたが、量が増えてからはいちいちExcelに書き込むのも面倒になってきた。
そこで使い始めたのが、Zoteroというデータベース。これはFirefox上のアドオンなので、Firefox上でしか使えないが、オフラインでも情報の操作はできる。

*操作画面▼


*個別の情報▼
ブックマークのように、フォルダで分けて管理できる。基本的な書誌情報に加え、私は勝手に「権利」の項目を「入手状況」の記入欄につかっている。「PDF」=PDF、「copy」=紙コピーで持っているもの、など。

一番便利なのは、ウェブサイトによってはボタン一つで書誌情報をコピーできること。
たとえば左の書誌情報は、手書きで入力したわけではなく、Brepols onlineのサイトからワンクリックでコピーした(アドレスバーの右端にあらわれる書類マークをクリックするだけ)。
アイスランドの図書館横断検索Gegnirでは残念ながらうまく働かないが、AmazonやCiNii、WorldCatなどは対応している。

論文等で参考文献表をつくるときは、必要な文献を選択し、右クリック→「アイテムから参考文献リストを作成」→「クリップボードにコピー」(このときスタイルを選べる。私がいつも使うのは Chicago manual, Authour-Date format)で、あとは必要な箇所にペースト。

*こんな感じに出力される▼
Sverrir Jakobsson. 2009. 「The Process of State-Formation in Medieval Iceland」. Viator 40 (2): 151-170. doi:10.1484/J.VIATOR.1.100426.

もちろん、完璧ではない。日本人の名前は姓名の順序が混乱したりするし、参考文献表にコピー&ペーストしたあとに、若干の補正を手動でしなければならないことも多い(上の例だと、英語なのになぜか論文名に「 」がついている)。

もっと高機能の文献管理ソフト(EndNote や RefWorks など)をつかえば精度は高まるのだろうが、自分には操作が難しすぎた。
Zotero以前にRefWorksを試したことがあるが、機能が多すぎてついていけず、いちいちログインして使うのも面倒だったので(大学のアカウントを通した無料版のため)、いまはZoteroのデータのバックアップにしか使っていない。

また、Zoteroのデータには、ウェブサイトのURLやPDF、メモを添付でき、また関連するアイテム同士をリンクさせることもできる。ひとつの論文の書誌情報と、論文のPDFファイルと、読書メモなどを一カ所にまとめておけるので、ファイルが迷子になりにくい。

一番の難点は、Firefox上でしか使えないこと。なので、Google Chromeなどになかなか乗り換えられない。
くわしい使い方については、上記の公式サイトか、日本語での紹介ページを参考にしてください。



3.Evernote公式サイト
基本はウェブ上と、自分のパソコン(オフライン含む)の両方で使える、文字通りの「メモ帳」。ただ、編集中に自分で保存をしなくても、自動的に文章を保存してくれる。
また、ウェブページの情報も簡単に保存しておけるし、画像やPDFをノートに貼付けることや、音声メモも保存できる。音声は使ったことがないが。


自分の使い方は、プロジェクトの管理とアイデア・メモのふたつ。
プロジェクトの管理については、 『Evernoteハンドブック』(¥980)のなかにあった使用例のひとつを参考にした。
まず、個別の「ノート」<「ノートブック」(個別ノートの束)<『スタック』(ノートブックの束)という階層があることをおさえておきたい。

ノートリスト
『1 プロジェクト』というスタックをつくり、そのなかに「11 いつかやるプロジェクト」「12 次にやるプロジェクト」「13 進行中のプロジェクト」「14 完了したプロジェクト」の4つのノートブックをつくる。
そして 、学会発表や論文、レポートなどの予定が入ったら、最低ひとつの「ノート」をつくり、締め切りに合わせて「いつか」「次にやる」「進行中」のどれかに放り込む。
当面は「進行中」のノートブック内にある仕事に集中、終わったら「完了」へ移動し、「次にやる」から次のタスクを「進行中」へ移す。

最初はプライベートでやりたいこと(旅行とか買い物とか)もいっしょに「いつか」のなかに放り込んでいたが、さすがにノートが増えてくると紛らわしいので、プライベート用には「111 Private」を別に作った。

タグ
「進行中」などのノートブック内のノートの分類は、学会名や論文名等のタグでおこなう。

こうしておくと、 たとえば「進行中」のノートブックを選択したあとに「Thesis」のタグを選択すれば、現在執筆中の修士論文関係のノートだけが表示されるという仕組み。
 
とはいえ実際のところ、いま現在「進行中」には修士論文関係のノート(指導教官との面談の内容メモや、史料引用、タイムラインなど)しか入っていない。アイスランドでのタスクは日本にいたときよりずっと少ないので、このプロジェクト管理はいまのところ、研究関係よりもプライベートでやることの整理に役立っている気がする。

ほかのスタックの『2 Study』『3 Life』『4 Tool』は情報、アイデアのメモ帳。
『2 Study』は研究で使いそうなメモ(「20 Study notes」)、読書メモ(「201 Authors」)、研究者としての生活に役立ちそうな情報(「21 研究生活」)などを保存。
『3 Life』にはウェブ上で気になったニュースやその他諸々の気になったこと、考えたこと等のノートが溜まっている。 完全に趣味の、フィギュアスケート関連のニュースとか。
じつは Evernote はまだ使い始めて日が浅いので、どちらかというと研究よりも、プライベートを含めあらゆる情報の集積地として使っている。とくにウェブ上の情報のスクラップブックという様相。

また、文章を書くツールとしては、Wordほど多彩な機能はないし、テキストエディタほど動作が軽いわけではない。自分は、書きながらどんどん注を付けていかないとあとで出典を忘れるので、論文の本文を書くときに Evernote は使っていない。使うのは、注を付けるまでもないメモを書くとき。画像を付けられるのが便利。
▼たとえばこういうもの。

無料版しか使っていないので、プレミアム版との違いは、アップロードできる容量が増えるとか、広告がなくなることくらいしか把握していない。
たくさんの紹介記事があると思うが、以下のものは比較的わかりやすいかと。
何でも放り込めるスクラップブック「Evernote」を使おう
ノートのリスト例


すべてに共通する弱点は、ネット環境が良くないと威力が半減すること。
日本にいた頃は、いつでもネットにつなげるという環境ではなかったので、このようなクラウド・ツールを本格的に試し始めたのは留学してから。
また、あまり周りにそういう情報に詳しい人がいなかったので(いたかもしれないが、知らなかった)、基本的にウェブサイトの情報で勉強したのだが、ちょっとしたことを聞ける人がいないのはもどかしい。こういう情報をもっと気軽に共有できる場があればいいのだが。

ただ、最初に述べたように、ツールには個人との相性がある。使いやすいノートとペンを見つけるように、すこしでも自分がストレスなしに作業ができるように、気に入った道具を見つけるのが一番大事だと思う(たとえば私は、TaskChuteは挫折したし、RefWorksは複雑すぎて使えなかった)。 そういう道具探し自体にストレスを感じるのなら、無理して探すこともないだろう。
けっきょくのところ、最新のツールを使っただけで優れた研究ができるのなら、誰も苦労はしないのだから。

*このようなソフトについてもっと玄人の方々はたくさんいるので(例えば以下)、興味のある方はご自身で開拓してください。
>化学系メーカー研究職です
発声練習
クラウド時代のネットツール活用術

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